3月は疲れ果てて少なめの5冊を読了。
乾くるみ 物件探偵
感想:
"物件の感情が視える"というエキセントリックな探偵役の登場する短編集。謎やトリック自体は小粒な印象でしたが、人間の業の深さが垣間見え、不動産業界怖いなーと自分が小市民であることを再確認させられました。
天袮涼 謎解き広報課
感想:
自治体広報誌に焦点を当てた、連作短編集。天袮涼の連作短編には、「葬式組曲」や、「セシューズ・ハイ」といった、全編を通して貼られた壮大な伏線が特徴的で、そういった点を好んでいたのですが、本作を読んで氏の小説のもう一つの魅力に気が付かされました。それは、職業人の熱量がヒシヒシと伝わってくること。パワフルに動き回るスーパーマンのような登場人物を描いているわけではないのですが、プロットに絡めて半ば狂気にも似た信念を持って仕事に臨んでいる人々が描かれています。
この小説も、前述2作のような派手な結末が用意されているわけではないのですが、登場人物の仕事に対する熱意や愛情がしっかり書かれていて、こういうところも天祢涼のファンになった理由なのかなと自分のことながら新たな発見になった一冊でした。
市川憂人 ブルーローズは眠らない
感想:
前作"ジェリーフィッシュは凍らない"から、探偵役の刑事マリアと漣が再び登場する本作。一点だけ、アンフェアじゃないか?と思う部分はあるものの、着地点を見つけることのできないストーリーに、「一体この話はどう決着をつけるのだろう?」とグングン引き込まれる出来栄えでした。
"薔薇の蔦で覆われた密室"に被害者の首だけが残されるという、前作並の本格めいた謎を筆頭に、数多くの魅力ある謎が詰め込まれている快作です。
貴志祐介 極悪鳥になる夢を見る
感想:
貴志祐介のエッセイ集。あとがきで著者も述べているが、決して良質なエッセイ集ではない。…ないのだが、第I章と第II章は背筋が粟立つようななんともいえない味わいがあり、この2つの章だけなら味のあるエッセイ集となったように思う。それだけに他の章の出来がイマイチだったのは残念。
まあ、本業はエッセイストではないので別にいいのだけれども。
北山猛邦 密室から黒猫を取り出す方法
感想:
"気弱過ぎる名探偵 音野順"を探偵役に据えた短編集。北山猛邦の作品を読んでみようかなと思い、まずは音野順シリーズからと思ったのですが、実は本作は第2短編集。第1短編集と勘違いして手に取ったのですが、本作からでも問題なく読めます。
"物理の北山"の異名を持つ作者ですが、その異名どおりの作品あり、企みに満ちた作品ありで、非常に楽しめた作品集でした。
個人的ベストは倒叙式ならではの仕掛けが炸裂する「停電から夜明けまで」。