ねいぴあの雑記帳

ドミニオンとか将棋とかミステリとか脈絡のない雑記帳

歌野晶午「舞田ひとみ11歳、ダンスときどき探偵」読了

久しぶりの読書。

今回は表題にある通り、歌野晶午さんの作品を。歌野ミステリは「葉桜」で完璧にやられて、その後「密室殺人ゲーム」でジャンキーになって以来の大ファン。だいたいの作品は読んでいて(全てではない)、前述の長編の傑作も数あれど、短編も個人的にかなりツボ。「放浪探偵」とかね。
で、今回の作品は短編集。刑事の舞田歳三とその姪の小学生ひとみ、男手一つでひとみを育てているひとみの父で歳三の兄の理一がメインキャラクター。おっさんの域に差し掛かっている2人も当然ながら、ひとみのキャラ造詣がまたイイんだなー、これが。いるいる、こんな小学生。みたいな。
実は恥ずかしながら、続編の「舞田ひとみ、14歳」を先に読んでしまっていたので、あの中学生のひとみの小学生時代はこんな感じだったのか!さもありなん!と1人ニマニマしながら別な楽しみ方をしていたのは秘密のお話。

さて、では短編ひとつひとつをネタバレにならない程度に紹介していきますか。


黒こげおばあさん、殺したのはだあれ?

パチンコ景品交換所強殺事件、ホームレス連続襲撃事件と未解決事件を抱える歳三のもとに新たな事件が舞い込む。個人で金貸しを営む老婆がメッタ刺しにされた上火を放たれ殺された。金庫からは現金や証文も消えていたという。犯人は債務者の誰かか、たびたび無心に訪れていた甥か、それともーーー

事件に関わる情報が良いテンポで小出しにされていき、最後ひとみの何気ない一言で歳三が真相に辿り着くというシリーズの型が最初の短編で示されています。事件の進展も、ひとみや理一、歳三との会話劇も心地良いリズムを刻みますが、一転真相は意外な方向からやってきます。一箇所ミスリードというか、思い込みというか、そのせいもあって個人的に真相が見えにくいものとなっていましたが、このネタ、思い返すと氏の短編で似たようなものを読んでるんですよね。一粒で二度引っ掛けられるとは……(苦笑)


金、銀、ダイヤモンド、ザックザク

雨上がりの朝、住宅街で電柱から宙吊りでぶら下がる中学生の死体が発見された。一体何故そんな状況で中学生は死んでいたのか?

大まかな謎の真相は見えやすくなっているきらいはありますが、それだけに「裏の真相」とでもいうのでしょうか、事件の背後に隠されていたストーリーは一種救いのないものです。氏の短編で時折垣間見える「黒さ」が出ていて、らしい仕上がりになっています。

いいおじさん、わるいおじさん

市議の死体が神社の階段下で発見された。一見事故に見えたが、捜査の結果他殺と判明。殺された市議は公園で禁止されているスケートボードをしている少年達を夜な夜な注意していたとの情報を得て、歳三は少年達と接触し、事件の謎を探る。

この作品は謎の解明における爽快感は軽目のものとなっていますが、伏線は丁寧に張られていて、短編のお手本のよう。ただ、悪くいうとパンチが足りないのですが、それはタイトルが対になっている次への足掛かりという意味も含んだ作品だと思いますので致し方なしかと。

いいおじさん?わるいおじさん?

身代金誘拐が発生。人質の大学生は空き地に廃棄されていた業務用冷蔵庫から救出された。不自然な点が多い事件だが、捜査の最中に人質が轢き逃げに遭い死亡。事件の謎を歳三が追うが掴んだ真相はーーー

不自然な点の多い事件に加え、先の事件で亡くなった市議の自宅宛に送られる脅迫状など、ストーリーの終着点が見えずらい作品ですが、前回あまり触れられなかった伏線も回収するなど、最後は綺麗にまとまります。ただし、その結末は歌野短編らしく明るいものではありませんが。

トカゲは見ていた、知っていた。

ひとみと叔母のふたばが出席したパーティーで毒殺事件が発生。捜査が進むにつれ、被害者は周囲からよく思われていなかった人物と判明するが、では一体誰が被害者に毒を盛ったのか?それとも無差別殺人か?

犯人特定に至るシンプルなロジックがお見事。そのロジックを組み立てるパーツは何気無く読んでいると見落としがちなので注意が必要ですが。個人的にはふたばの人物像が気にいってます。身内にこんな人が実際いたらなんやかんや大変そうですが(笑)

そのひとみに映るもの

運転手のいない事故車のトランクから他殺体が見つかった。身元は大学院農学部の留学生だと判明。彼は何に巻きこまれて殺されたのか?一方、ひとみの通う小学校では1クラス分全員の靴が盗まれるという怪事件が発生。留学生の事件にあたる歳三は、ひとみに靴の盗難事件も捜査してくれとせっつかれるが…

最後の短編では、ひとみの周囲でも事件が起きます。しかもかなりのヘンテコな事件。これと留学生殺しを結びつける力技も流石ですが、なんといっても一番のポイントは事件の大筋が見えたあとのサプライズ。読んでいてリアルで声が出たのは久しぶりです。この最後の短編を読んだ後でもう一度全編を通して読み返してみると、また違った味わいがありますね。



全体的に短編ミステリとして手堅くまとめながらも、それでいて歌野作品らしいブラックさもほのかに漂うオススメの作品でした。