2019.5.6 県名人戦
約2年前、県棋界にビックニュースが轟きました。
元奨励会三段のK氏が地元に戻り大会復帰。
同じころ、全国大会では元奨勢の活躍が目立っており、県大会レベルで全国クラスの将棋を体感できるのは願ってもいないことである一方、代表権を根こそぎ獲られるのではという不安もあったため一長一短ではありました。
K氏復帰からこの2年、後者の不安は的中し、県のアマ竜王3連覇など氏の出る県内の大会はほぼ全て氏の優勝で決着している状況です。
前者に関しては、確かに大会で当たった際に読みの深さや序盤の考え方など教わることが多く収穫はあるにはあったのですが、あまりの実力差に絶望感を味わう場面も多々。1つ前の記事にしているような氏の出ない大会だったり、準決勝以前で誰かがK氏を倒して、その人を決勝で叩くような恵まれた展開でないともう県代表獲れないと本気で思っていました。
そんな心情で迎えた今大会。K氏と当たって負けるなら仕方ない、ただ、できるなら決勝で当たって形だけは作りたいなと戦前は思っていました。
謙虚な気持ちがよかったのか、内容の割には物凄い運が良くて最高の結果を出すことができました。
前置きが長くなりましたが、以下恒例の振り返り。
○準々決勝
初対戦のO氏と。東日本支部対抗戦優勝の実績があります。
この日は角換わりの気分だったのですが、受け間違って劣勢に。これだからこの戦型は・・・
おまじないで4六角とした下図。(先後反転しています)
当然ながら☗2三歩が激痛。☖5六桂☗7九玉☖4八桂成としても☗2四飛で相手玉は詰まないので負け。☖2三同金としても☗4三成銀(☖3二歩で難しそう)ではなく☗3四銀が厳しく負けそう。
ということで、持ち時間の全てを投入して☖5二歩と怪しげな歩を打ってみました。
☗同成銀でも状況は変わっていないのですが、O氏が選択したのは☗2二銀から☗6二歩成のコース。これならワンチャンあるのでは?と思っていたのですが・・・
かなり進んで下図に。☗2一銀不成に☖3二銀としたところ。
さっき☖5二歩打ったときはこの局面まで考えていて、これでギリギリ受かっているのでは、と思っていました。相手玉は桂馬+金駒一枚あれば詰みの条件付きです。
ただし、その条件を気にせず、上図で☗3四桂が当然の一手。☖同金☗同歩に☖2一銀としたいのですが、こっちの王様がぴったり詰みなんですね。打たれてから気が付いたので修正が効かず観念しました。
ところが。
本譜は☗3四桂☖同金に☗3二銀成☖同玉の交換を入れてから☗3四歩だったので相手玉の詰みの条件満たして大逆転。
どうも詰むのをうっかりしていたようで。しかしこの大差がひっくり返るから将棋というゲームは恐ろしい。
○準決勝
お相手はE氏。前回の記事の決勝で当たった相手です。
また、前週の予選会でも当たっており、最近よく大会で当たる印象があります。
準々決勝で薄氷を踏む思いでの勝利でしたが、やっぱり角換わりの気分なので再登板。
やってみたかった前期NHK杯決勝の羽生―郷田の郷田先生の組み方をぶつけてみました。(下図は先後反転してます)
NHK杯決勝とまったくの同一局面。
ただ、この後決め手級の手を逃して(というより局後に指摘されるまで見えてなかった)、代わりにとんでもない手を指してまたしても劣勢に。
とんでもない手は恥ずかしくて載せませんが、反省の為に当時の状況を記しておくと、第一感の手が読んでみたら全然ダメで、パニックになりながら必死に代案探してた中の着手。しかも10分くらい長考してその決め手クラスの手すら見えない有様でした。
離席するなりして一呼吸置けばよかった。
で、迎えた局面が下図。
次に☖5四金が指せれば、という局面ですが、残念ながら手番はE氏。ここでは☗7四歩が好手。いわゆる壁の逆サイドから手を作る、というやつで、一見ぼんやりしていますがかなりの厳しさ。多分指されていたら☖3三銀から突撃するのですが未来がなさそうです。
実戦では次の☖5四金が見えていてかなり焦ったとのE氏の感想があり、ここから☗1二歩☖同香☗4三歩成☖同歩☗2二角成☖同玉☗4一角☖5四金☗6三角成と進行し、急に視界が開けました。上図と下図とを見比べれば一目瞭然です。
いまにも潰れそうだった陣形があら不思議。さっきの☗7四歩とは逆に、壁に触るとこうなる、という典型例です。
ここから☖8六歩☗同歩☖8八歩☗同金☖7七銀☗同桂☖同歩成☗同銀☖8七歩☗同金☖7五桂と筋に入り勝ち。
途中、☖8八歩としてから☖7七銀が大事なところ。単に打ち込んでも勝ちだったとは思いますが、こっちの方が明快だと思います。
これで戦前の目標だった決勝に進出。お相手は予想通りK氏。前年のこの大会決勝と同じカードになります。
いざリベンジを、と熱い心もちにならないのは前書きで書いた通り。この日指した2局の内容があまり良くないので、いつも以上のド大差にならなければいいなぁ程度の気持ちで盤の前に座りました。
○決勝
K氏の矢倉に急戦矢倉。クラシカルな戦型になって組み合った下図。
(先後反転しています。そういえばこの日は3局全部後手だった)
☗3六歩としていないのが恐らくK氏の工夫。仮にこの局面から☗3六歩なら、成否は別として☖4五歩☖8六歩と突き捨ててから☖5五歩でバリバリ行く予定でしたが、5五で銀交換になったときに飛車取りにならない現状では流石にやりずらい。
ここからちょっと進んで下図。
☗3六歩をついてくれるまで☖3一玉と☖4二金で待機してようやく突いてくれた局面。次の☗3五歩が目に見えているので当然行きます。
☖6五歩☗同歩☖8六歩☗同歩☖5五歩。
しかしながら、☗2四歩☖同歩☗2五歩の反撃を喰らい・・・
ここまで進むと手待ちした☖3一玉と☖4二金右が咎められている格好で芳しくない情勢です。
以下、☖同銀☗4五銀(☗同銀☖同歩☗同角も有力)と進展し下図に。
ここから☖2二角☗3三歩に☖同銀と取ろうとして唖然。
☗2三銀成をうっかりして青褪めました。かといって☖同桂では未来がないですし、☖同金は後に☖6三金が激痛になりそう。
どれを選んでも駄目そうですが、一番マシかと思ったのが☖3三同銀☗2三銀成☖同金☗同飛車成☖2四歩の蓋歩の手順。ただし、☗3四歩で金駒一枚損して下図に進んだので結局厳しそう。
駒交換が一段落して落ち着いた上の局面。
☗6三金から右辺を荒らされてもまったく自信は無かったですが、K氏は☗4九金。飛車の打ち込みを消して駒得を主張される長い将棋になると勝負所なくなるので、☖3八歩と小技を繰り出して対応しますが、そこで☗2八歩とさらに落ち着かれると困っていたと思います。☖6五銀から特攻するしかないのですが、さすがに受け切られそう。
K氏は☗2八歩に代えて☗3四歩と叩いてから☗5六角。以下☖6二飛☗6三銀☖8二飛☗7四銀成☖6五銀☗同銀☖同桂☗同角☖2七飛と進んで下図。☗5六角以降の進行はこちらとしてはほとんど変化しようがない進行なのですが、銀桂損で相手陣の上部も厚く半ば諦めムードで指していました。
対局中はそんな心情でしたが、あとから聞いたところによるとこの局面もひとつ前の局面も評価値的には500~600程度だったのは幸いでした。
ここまでの流れも悪いし、銀桂損ですが、6五の角と7四の成銀が遊んでいるのが大きな差が付いていない要因だったのかなと思います。
実戦はここから☗7七角☖2九飛成☗5五角☖4四金☗8二角成☖4九竜☗6一歩☖6六歩☗6八金引☖8七歩と進み急に勝ちに。
☗7七角が絶好に見えてあまり良い手ではなかったことも幸運でした。敵陣の桂・金と取って、どの変化でも☖8七歩が激痛なんですね。
代えて、相当指しにくい手ですが、☗1八銀から長い将棋を目指されるとまだこちらが悪そうというのが感想戦での結論。
対局中は、急に勝ちそうな局面が出現してパニックになりこの後はグダグダな寄せをして冷や汗をかきましたがなんとか勝利。
K氏に対しての初めての勝利がこのような大きな舞台で驚いているとともに、これは次の東北六県大会・アマ名人戦では不甲斐ない将棋を指せないと気を引き締める結果になりました。
3局とも内容は決して褒められるものではなく、運が良くて勝ち取った優勝でしたが、前置きで触れたK氏への苦手意識や元奨勢への過剰な恐れを少しは拭えたという点で大きな大きな優勝でした。
7月・9月の大舞台まで悔いの無いようにしっかり調整・節制してその日を迎えたいと思います。