ねいぴあの雑記帳

ドミニオンとか将棋とかミステリとか脈絡のない雑記帳

2018.11月 読んだ本

11月は忙しかった割に大会がほとんどなかったので思いのほか多めの冊数を読めました。

 

 

麻耶雄嵩  友達以上探偵未満

 

感想:

探偵を目指す女子高生コンビが3つの事件の謎を解き明かす連作。筆者の作品の根底に流れる『名探偵とはなにか』というテーマが強く意識されるストーリー仕立てになっています。

最終章の『夏の合宿殺人事件』を読み終わると前2編がまた違った味わいになるのが好印象ですが、ちょっと前述のテーマが色濃く出過ぎてしまっているきらいもあり、作品全体としては好みの分かれるところかもしれません。

 

 

天祢涼  罪びとの手

 

あらすじと感想:

廃ビルで発見された身元不明の遺体を引き取りに来た葬儀業者の御木本。御木本は言う「この遺体は父だ」。遺体に発見現場に臨場した刑事滝沢は事件の匂いを嗅ぎ取り単身で調査にあたる。葬儀屋を継がなかった兄は遺体に違和感を感じる。「本当にこの遺体は父なのか?」

”自分が死んだときは葬式は挙げるな”との言いつけを守らず、盛大な葬式を挙げようとする御木本の真意とは?遺体は本当に父なのか?ーーー

 

著者の”葬式ミステリー”は「葬式組曲」以来2作目。前に書いたと思いますが、天祢涼の作品には独特の職業人の熱量が描かれることが多いです。今作でも葬儀屋の矜持がしっかりと描かれ、それがストーリーにずっと横たわる謎の解明に絡んでくるのが素晴らしい。

もう一つの持ち味である構想力と融合して、個人的にはすごく好みの作品でした。

 

 

 

北山猛邦  『アリス・ミラー城』殺人事件

 

あらすじと感想:

 

ルイス・キャロルの作品にちなんだ不可解な城に探偵たちが集められた。ある者は密室状況下、巨大な鏡の上で顔を溶かされた死体となり、ある者は合わせ鏡の部屋で殺され、犯人は目撃者の眼前で消失する。館内のチェス盤からは殺人の度に駒が一つずつなくなって……。不可能犯罪に込められた驚くべき思念とは!

(講談社ノベルス裏表紙より)

 

メフィスト賞受賞作の「ギロチン城」ほどではないですが、終末感漂う雰囲気の作品。

また、館に集められた探偵たちということで、本格ミステリに漂う独特の雰囲気も醸し出しております。

 

密室やトリックの意味づけ、狂気といっても過言でない意外な動機など、注目すべき要素は多々ありますが、やはり隠された真相とそれを成立させる作者の剛腕が最大の見所でしょう。

掛け値無しの傑作です。

 

 

 

月原渉  首無館の殺人

 

感想:

浮遊する首、時間差で現れる首---

いわゆる首斬りモノに分類される、館ものの本格ミステリ(作品名がまさしくそのままですね)。首斬りモノは当然ながら首の切断の理由が焦点で、本作はなかなか想定外の理由を孕んでおり、しかもその理由すらも伏線とするような壮大な構図は見事。

ただ、一点だけ腑に落ちない点があったのは残念。エアミス研ランキングに入れるかいれないか悩んだ一冊でしたがその理由で外しました。鮎川哲也賞受賞者とのことだったので、他の作品にもチャレンジしてみようかなとは思っています。

 

 

 

伊坂幸太郎  仙台ぐらし

 

感想:

高校・大学時代、伊坂幸太郎の作品は好きでよく読んでいました。あのほんわかした語り口で、鮮やかに伏線回収される爽快感が気に入っていましたが、ある時期から綾辻行人の『館シリーズ』にはまってから離れていたんですよね。

今回はその当時の事を思い出しながら読んでみたエッセイ集。震災前後に「仙台学」という雑誌に掲載されていたものが多めで、ほかの媒体に掲載されたものもいくつか。

普段の小説と変わらない、どこかとぼけた語り口で、自分が一時期暮らしていた街を舞台にした(とはいえ仙台ならではの描写はほぼでてこないですが)ほっこりするエッセイ集でした。

たまにはまた読んでみようかな、伊坂幸太郎

 

井上真偽  探偵が早すぎる(上)

 

感想:

著者の作品は犯行の可能性を探偵が潰していく「その可能性はすでに考えた」を読んで以来なのですが、今作は"事件発覚前に犯行を潰す"探偵の登場です。勝手なイメージなのですが、『異色の探偵』というものにこだわっていらっしゃるのかなという印象。

 

倒叙形式で進んでいく三編がメインとして収録されいますが、"事件発覚前に犯行を潰す"という探偵の性質上、読み手から見ると勝負所は一般的な倒叙ミステリに比較して少ないため、サプライズを用意できる箇所がそれに比して少なくなる、よって無理筋と思われるかもしれない解決が多いか、ありきたりの解決になるかなーということを読む前に危惧していましたが、前者の予想が当たってしまったのはやや残念。

ギリギリで成立させることと、無理筋とでは紙一重の差なのでしょうが、個人的には無理筋と思われるものが見受けられました。

 

ただ、これあくまで上巻だけの感想なので、"こういう探偵なんだな"というのを提示して下巻で勝負という可能性も存分にあり、また、どこかコミカルな犯人像だったり探偵サイドだったりと物語自体はとても面白かったので、下巻にも手を出してみる予定です。