エアミス研ランキングの時期がやってきましたね。どの5作を選ぶか悩ましい日々を過ごしています。
【告知その1】今年もこの時期がやってきました。9年目を迎えたエアミス研ランキング投票の募集です。 2017/11/1~2018/10/31までに刊行されたラノベ含む国内ミステリ(奥付参照)であなたが推したい5作品をご投票下さい。投票期間は11/5(月)~11/18(日)24時まで(続く) #air_mys_ken
— 麻里邑圭人 (@mysteryEQ) 2018年10月30日
小林泰三 ドロシィ殺し
感想:
"アーヴァタール"シリーズ最新作。
”不思議の国” ”ホフマン宇宙” ときて次の舞台はオズの魔法使いの”オズの国”。
今回のオズの国の住人は前2作と比べると理不尽度はやや低めで、ちょっと物足りなかったり(笑)
シリーズや小林泰三作品の想いについては9月分(2018.9月 読んだ本 - ねいぴあの雑記帳)の「クララ殺し」の欄で触れているので今回は分量少なめで書きますが、本作でもいわゆるスターシステム的な登場人物が出てきているのがニヤリとさせます。
それと、今回も当然ある種の仕掛けを想定しながら読み進めましたが、用意されていた真相は晴天の霹靂。大技一発という印象ですが完全にしてやられました。
また、事件の真相が明らかになった後の展開は、やはり小林泰三らしい悍ましい結末というべきか。作中で”オズの国では犯罪が無い”という意味合いの描写がありましたが、その意味がああいう形で明かされるのにも驚かされました。
”アリス殺し”、”クララ殺し”含めて一押しのシリーズです。
早坂吝 メーラーデーモンの戦慄
あらすじと感想:
メーラーデーモンを名乗る者から「一週間後、お前は死ぬ」というメールが届いた後、殺害される連続殺人が発生! 「お客様」を殺された上木らいちは捜査を開始。
被害者は全員、X-phone(サイフォン)社のガラケーを所有していたことが判明する。
一方、休職中の元刑事・藍川は「青の館」で過ごすが、小松凪巡査部長のピンチを知り、訳ありの宿泊者たちと推理を展開。
らいち&藍川、二人は辿り着いた真相に震撼する!!
”援交探偵”上木らいちシリーズ5作目。あらすじに「青の館」が出ているとおり、過去4作の舞台や登場人物も登場するシリーズ集大成の作品。
前半部分は正直焦点がぼやけているような感じで、モヤモヤしながら読んでいたのですが、『読者への挑戦状』を挟んでからの怒涛の展開は唸らされました。
作者特有のエロや暗号、メタなど、これでもかといわんばかりの趣向を詰め込み、それでいてギリギリのバランスで作品を成立させる作者の力量には舌を巻かざるを得ません。
シリーズ特有のぶっ飛ぶような真相という観点からはやや物足りないですが、それを補って余りある趣向の数々やロジカルに真相を導き出す推理過程は高評価です。
深水黎一郎 倒叙の四季
あらすじと感想:
懲戒免職処分になった元刑事が記した「完全犯罪完全指南」をネット上で手にした人々が、次々と完全犯罪を目論むが、4つの事件に遭遇した警視庁捜査一課の海埜警部補は犯人が犯した些細なミスをもとに完全犯罪を崩していくーーー
”芸術探偵”シリーズなどで活躍する海埜警部補を探偵役とした倒叙ミステリの連作短編集。清少納言の『枕草子』をもじったタイトルが各短編につけられているのが印象的。
倒叙ミステリはあまり読まない(苦手とかでなくたまたま手に取る機会が少ない)のですが、”犯人はどのようなミスを犯したのか”、”どのように犯罪が暴かれるのか”がしっかり描写されており読み応えのある一冊に仕上がっています。
また、犯人たちが完全犯罪の拠り所とする元敏腕刑事が著したとされる「完全犯罪完全指南」は非常に細かい部分までカバーされており、それだけに犯人と捜査陣の対決が好勝負として描かれています。
四季折々にちなんだ殺人が暴かれ、ラストで焦点の当たる「完全犯罪完全指南」まわりの話も短い分量ながら鮮やかなまとめ方。
個人的ベストはオーソドックスにまとめながらも、鮮やかな一撃の決まる「春は縊殺」。
大山誠一郎 アリバイ崩し承ります
感想:
「密室蒐集家」で本格ミステリ大賞を受賞した著者ですが、今度は”アリバイ”に特化した短編集。
『時計にまつわるご依頼は何でも承る』とのことから、”アリバイ崩し承ります”の張り紙が貼られた時計店の若き女店主が安楽椅子探偵となり7つの謎を解き明かします。
前述の「密室蒐集家」でもそうだったのですが、謎の提示とその解決のみに特化したストイックな文章は個人的に結構好きな部類です。その分手掛かりが見えやすくなってしまうため、解決はかなり綱渡りの印象ですが、それだけに解き明かされる真相は意外性に富んでおり今年度の既読新作のなかでも3本の指に入る満足度。
個人的ベストは解決編で明かされる真相における反転が鮮やかな「時計屋探偵とストーカーのアリバイ」。