ねいぴあの雑記帳

ドミニオンとか将棋とかミステリとか脈絡のない雑記帳

2018.9月 読んだ本

8月は一冊も読めなかったのでお休み。2か月ぶりの読書記事です。

 

 

 

円居挽  語り屋カタリの推理講戯

 

感想:

"who" "how" "why" "where" "when" "what" の6つの謎を解き明かした者の願いが叶うーーー そんなデスゲームに参加した少女が、 強豪プレイヤーのカタリから前述の"5W1H"についてのレクチャーを受けながら成長していく物語。

 

上記の"5W1H"それぞれがテーマの連作短編集。趣向はどれもおもしろく、作中での「推理合戦」も読みごたえがあるのですが、分量が短いがために物語全体がかなりの駆け足で進んでいる印象。特に教師役のカタリ周辺の話はもうちょっと欲しかったかも。

前に何かの折に書いたかもしれませんが、講談社タイガというレーベルの仕様上致し方ないのかもしれませんが。

 

個人的ベストは”あのネタ”の見せ方が巧いと感じた「フーダニット・クインテット」。

 

 

倉知淳  ドッペルゲンガーの銃

 

感想:

密室に出現した他殺体、同じ日の14時を1分前後して東京の北と南で使用された同一の拳銃、翼の生えたとしか思えない殺人犯ーーー

昨今珍しく不可能状況に真正面から挑戦する本格ミステリ中編集。探偵役の造詣もユニークで、ロジカルに解き明かされる解決も鮮やかで楽しく読み進めることができました。

 

基本的にここ最近の自分のミステリの読み方は”作者との勝負”というよりかは”どんなものを魅せてくれるのかを楽しむ”に重点を置いています。以前は勝負感覚で推理もすることはありましたが、大概がデコイに釣られたり見当違いのことを考えていたりで散々な目に遭っていたので・・・

そのため、精神衛生上の都合もあり最近は軽く自分なりの真相を考えるくらいにとどめているのですが、今作は完全正解とは行かずともかなり真相に寄せることができて、久々にちょっと嬉しかったり、もうちょっと突っ込んで考えていればなぁというもどかしさを味わう事ができました。

忘れがちになっていた純粋な”犯人当て”の面白さに回帰できた一冊です。

 

早坂吝 双蛇密室

 

感想:

”援交探偵”上木らいちシリーズ第4作。

実はこの作品、Twitter上の有志による投票のエアミス研ランキングで名前を見て、早坂吝という作家を知るきっかけになった作品です。

 

前作、「誰も僕をさばけない」(最近文庫がでましたね)では社会派とエロミスの融合を目指していましたが、今作はデビュー作「〇〇〇〇〇〇〇〇殺人事件」を凌ぐかのような強烈な真相が炸裂。

この構想を成立させる力量にただただ脱帽です。

 

ミステリ史上、恐らく初の試みだと思う真相が用意されていますので興味のある方は是非。前3作を読んでいなくとも私見では特に問題ない作りですので。

 

 

小林泰三  クララ殺し

 

感想:

「アリス殺し」の続編。恐らく前作読んでからこちらを読んだ方がいいと思います。致命的なネタバレがあるわけではないのですが、世界観を理解するためには「アリス殺し」は必読ですので。

さて、前作同様”夢の世界”と”地球”での出来事が交互に描かれますが、主人公の蜥蜴のビル/井森は今回は不思議の国を離れて別の世界へ。車いすの少女にお爺さん、アルプスの牧草地のような・・・とくれば当然「アルプスの少女ハイジ」ですが、今作の舞台は19世紀に活躍した作家E.T.A ホフマンの作品群の世界、通称”ホフマン宇宙”が舞台です。いくつかのバレエの元ネタの作品を手掛けた・・・とのことなのですが、バレエの造詣は深くない、どころか全くないので巻末の作品解説で初めてホフマンの作にどういうものがあるのか、登場人物の背景などを知ることができました。ぜひ今度読んでみようかなと思っています。

さて、前作の「アリス」における”不思議の国”と同様、”ホフマン宇宙”も小林泰三ワールドと親和性が高いですね。科学と魔術が混在し、不条理で理不尽な登場人物たち。これを淡々と描写していく独特の味。久々の小林泰三の世界観を堪能できました。

 

ミステリとしては”ホフマン宇宙”においても”地球”においても捜査過程が地味な印象は拭えないですが、前述のような珍妙な登場人物たちのやり取りや井森を襲う度重なる災難に黒い笑いを禁じえなく、そこまで退屈という感じは受けませんでした。

前作を読んでいればある種のトリックは必然的に頭に思い浮かぶため、真相のインパクトが弱いのは致し方ない所。しかし、前作とは違う見せ方になるよう施された工夫の数々は秀逸。また、道中で真相の一部が見えやすくなっている部分があるのですが、一部が故に何故そうなるのかがさっぱり見えてこずに非常に悩まされました。

 

解決編において”ホフマン宇宙”の犯人を襲う結末は非常に小林泰三チックなもので、また、”地球”の側においても小林泰三の過去の作品に触れていればニヤリとする幕切れになっており、満足な読了感。

 

次作「ドロシィ殺し」は既に刊行済みで、次は何を用意しているのか非常に楽しみです。

 

 

白井智之  少女を殺す100の方法

 

感想:

久々に白井智之の作品読みたいと思って、事前知識なく読み始めたら、ほぼ全編にわたってのグロ描写にちょっと後悔した一冊。

とにかく少女が死にまくります。しかも飛び切りの残酷さで。

スプラッタ物もたまに読むのですが、事前にそういう作品だとわかってればの話で、今回のように想定外だとダメージ大きいですね。氏の作品はそういう傾向にあるのですが今回のは予想を上回るグロさでした。

 

ただ、単純なスプラッタ物というわけではなく、グロ描写にしっかり伏線を仕込んだミステリだったり、ノックスの十戒を徹底的にネタにしたメタミステリも収録されている短編集で、事前にそうと知っていればもっと楽しく読めたのかなと少し残念。

 

 個人的ベストは周到に貼られた伏線で驚愕の真相が露わになる「少女が町に降ってくる」。