ねいぴあの雑記帳

ドミニオンとか将棋とかミステリとか脈絡のない雑記帳

2018.5月 読んだ本

北山猛邦  『クロック城』殺人事件

 

感想:

第24回メフィスト賞受賞作。最近好んで読んでいる北山猛邦のデビュー作。

一般的な氏の作品への印象としてあるのは”物理の北山”と呼ばれる物理トリックと、終末的なイメージの世界観かと思われます。少なくとも自分が調べてみた感じだとそうでした。

しかして本作は滅亡が間近に迫る世界が舞台となっており、後者のイメージがゴリゴリに押し出されている文体で、メインの謎である衆人環視の密室の解明も豪快な物理トリックが用いられています。が、しかし。「SEEM」や「十一人委員会」、「ゲシュタルトの欠片」などの終末世界のガジェットが掘り下げが足りていない感じがしますし、物理トリックも真相がわかりやすく感じられました。

上記のような感想を持ちながら読み進め、密室の謎も明かされ、「・・・これでメフィスト賞?」と思っていたらまだまだ残りのページが。

緊張感あふれる脱出劇や2つの巨大勢力の対峙、その対峙の間での推理合戦、そこで明らかになる大量の真相など、そこからの怒涛の展開は前述の不振を払拭するのに充分なもの。特に最終盤で明かされる本格ミステリ特有の”アレ”の理由には度肝を抜かれ、「・・・これは確かにメフィスト賞だ」と認識を改めざるをえませんでした。

 

前述の難点はあり、読む人を選ぶかもしれませんが、傑作と呼んで差し支えない作品かと思います。

 

 

 

相沢沙呼  午前零時のサンドリヨン

 

感想:

第19回鮎川哲也賞受賞作。いわゆる「日常の謎」モノで、高校一年生の語り手の恋愛描写も絡む青春モノの連作短編集。

この手の片想い中の男子高校生が語り手の小説を読むと、なんとも形容し難い胸のザワつきを覚えるんですよね。大学生活の後半の方で『とらドラ!』のアニメをぶっ通しで視聴したことがあるのですが、そのときに感じたものと近いものがあります。共感してもらえますかね、この感覚。

 

それはさておき。軽い、ポップな文体で描かれた本作は各章の謎も魅力的で解決もスマートに感じられました。最終章でのクライマックスも意外性に富み、また、臨場感あるものに仕上がっていて大満足。鮎川哲也賞は新人作家に贈られる賞ですが、それを感じさせない読み応えのある作品でした。

また、探偵役のヒロインはマジシャンという設定で、随所にマジックネタがみられるのですが、マジックを見るのが好きな自分としてはその点も好印象。(特定のマジックのネタばらしがあるわけではないです。念のため)

 

早坂吝  誰も僕を裁けない

 

感想:

"援交探偵  上木らいち"シリーズ第3作。講談社ノベルスで読んだんですが、裏表紙のあらすじにもあるように、「エロミスと社会派の融合」を謳っている本作ですが、企みが成功しているかというと、個人的には微妙なところ。

「法」というものに仕事で触れ、本作で描かれていることは法の持つ一面としてある程度当然のものとして認識しているからかもしれませんが。

あと、作中で扱われている殺人事件の真相も大半が見えやすくなっており、シリーズの前二作のような奇想天外な仕掛けがほとんどないのも微妙だったかなと。

 

ネガティブな評価をつらつら書いてきましたが、もう一人の視点人物、戸田に関してのプロットはそうまとめますかと膝を打ちました。読み進めていく中で、プロローグと矛盾が生じてないか?と思っていましたが当然そんなことはなく、美しいエピローグに仕上がっています。

 

前2作のようなトリッキーさはないですが、シリーズモノで毎度同じ展開を繰り返しても食傷気味ではありますし、これはこれでアリなのかなという印象です。

 

 

中山七里  連続殺人鬼カエル男ふたたび

 

感想:

「連続殺人鬼カエル男」の続編。続編が出るとは全く思っていなくて、書店で見つけて即購入した一冊です。

シリーズものって、どこから読んでも大丈夫なものと、順番に読むべきものがありますが、このシリーズは明らかに後者ですね。

 

ストーリーは前作でもお馴染み、渡瀬と古手川の刑事コンビの活躍や、刑法第39条の是非など、警察小説と社会派ミステリが融合したような印象を受けます。

特に、作中で渡瀬の語る責任能力の無い犯罪者への処遇の歴史については一読の価値あり。まぁ、近代法ができてから今日までそのようなルールでやってきた、だから正しい、と盲信するのは危険で、より良いルール作りは心がけていくのは当然ですが。

 

事件の真相については、終盤のどんでん返しを得意とする作者らしい仕上がり。フェアかアンフェアかで言えばかなり綱渡りのような気がしますが、あのラストにもっていくためには致し方ないでしょう。

 

ちなみに、作中で登場した弁護士御子柴が主役の別シリーズも興味があるので、読んでみようかなと思っていたり。

 

 

天祢涼  銀髪少女は音を視る

 

感想:

「キョウカンカク」シリーズの第3作。今作から”ニュクス事件ファイル”なる副題がつき、発行レーベルも講談社タイガに変更されています。

 

美夜と相棒の警察官・一路のコンビで犯人の”ジェネシス”による電話での指示によりミッションをこなしていく様は「ダイ・ハード3」っぽいなーとか思ったり。しかし、奮闘むなしく次の事件が起こってしまうのですが、そこからの展開は二転三転めまぐるしく動いていき、予断を許さない展開から導き出される結末は予想だにしないもの。

ただ、意外性に富んだプロットではあるのですが、分量が少ないせいかやや駆け足で後半部分が進んでいってしまったのは残念。前回までの講談社ブックスならちょうどよい長さに仕上がったのかなと。

 

あと、これは個人的に残念だったことですが、もうちょっと矢萩さんの出番がほしかったです(笑)

 

天祢涼  透明人間の異常な愛

 

感想:

 「キョウカンカク」シリーズの第4作。街中での捜査がメインだった過去3作と異なり、今回は密閉された研究所で”透明人間”との対決という趣向になっています。

 

美夜の共感覚を用いてどう”透明人間”に勝つのかがメインですが、ところどころそれだけでは終わらないことがわかるある人物の独白混じりでストーリーが進んでいき、不穏な雰囲気を感じさせます。

 

緊迫感ある”透明人間”との幾度かの対決を終え、明らかになるある人物の正体はかなりのサプライズ。シリーズの方向性が示される仕上がりで、続編も楽しみです。

 

麻耶雄嵩 化石少女

 

感想:

名門の私立ペルム学園の古生物部の部長まりあを探偵役、部員の彰をワトソン役に据えた学園モノの連作短編集。

まりあの繰り出す豪快な、そして破壊的な推理や、彰の章を追うごとに苛烈になっていくブラックジョークなど、楽しく読める一冊です。

ただ、それで終わらせないのが麻耶雄嵩。探偵とワトソン役のあり方を追求し続けている麻耶雄嵩らしいラストは大満足。最終章の「赤と黒」のタイトルの意味がわかったときは膝を打ちました。

 

…それにしても、某有名ミステリ漫画並みに殺人事件が起こるこの学校大丈夫なのかと思ってしまうのは野暮なんでしょうね。