2018.2月 読んだ本
石持浅海 月の扉
あらすじと感想:
国際会議を控えた那覇空港でハイジャック事件発生。犯人の目的は沖縄警察に拘留されている「師匠」を滑走路に連れてくること。そんな航空機の中で何故か乗客の死体が発見されるーーー
特殊な状況のクローズドサークルもの。何故ハイジャックされた飛行機のなかで、どうやって誰が事件を起こしたのかが謎。howの一部とwhoはみえやすくなっていますが、それ以外については総じてよくまとまっています。また、用意された結末も見事。「師匠」の造形がちょっと現実離れしている点と、機内の緊迫感がやや欠けている点はちょっと残念でしたが、本作の構図を考慮すると致し方ない(特に前者は舞台設定上外せない)かと思われます。総合的に見て快作といえるかと。
早坂吝 ◯◯◯◯◯◯◯◯殺人事件
感想:
第50回メフィスト賞受賞作。個人的に、メフィスト賞受賞作はいい意味で「ぶっ飛んでる」作品が多いイメージですが、本作も想像以上のぶっ飛び方で大満足。その大ネタを支える伏線の張り方も上手さを感じます。
北野新太 透明の棋士
感想:
新聞記者である著者の、棋士・女流棋士に対するインタビュー17編。インタビューといってもショートなものばかりで、発行社のレーベル「コーヒーと一冊」にふさわしい分量にまとまっています。
等身大の棋士たちを爽やかに描く仕上がりで、将棋や棋士に興味を持って、深く知りたいなという方々に特にオススメ。
先崎学 世界は右に回る(再読)
感想:
将棋世界に連載された先崎九段のエッセイ集。先崎先生のエッセイは中学生の頃から好きで、今でもたまに読み返したくなります。
将棋世界に掲載されたのが、ちょうど羽生七冠誕生のころで、先崎先生がC2からなかなか昇級できなかったころでもあります。そんな中で、昇級を決めた直後に書かれた「ここ数年のこと」は先崎先生にしか書けない文章かと。また、昭和の匂いも色濃く残る棋士の日常も楽しく読める一冊です。
市川優人 ジェリーフィッシュは凍らない
あらすじと感想:
特殊技術で開発され、航空機の歴史を変えた小型飛行船〈ジェリーフィッシュ〉。その発明者であるファイファー教授を中心とした技術開発メンバー6人は、新型ジェリーフィッシュの長距離航行性能の最終確認試験に臨んでいた。ところが航行試験中に、閉鎖状況の艇内でメンバーの一人が死体となって発見される。さらに、自動航行システムが暴走し、彼らは試験機ごと雪山に閉じ込められてしまう。脱出する術もない中、次々と犠牲者が……
第26回鮎川哲也賞受賞作。「そして誰もいなくなった」、「十角館の殺人」などを代表としたクローズドサークル内における全滅モノなのですが、このテーマでは斬新な趣向をしっかりとした筆致で読ませる作品。作品の出来には大満足なのですが、この手のテーマはこういう魅せかたにしかもはや生き残る道がないのかな・・・とちょっと哀しかったり。
大崎善生 編集者T君の謎
感想:
作家・大崎善夫が将棋世界編集長時代に見た将棋界や、作家に転身後のヨーロッパ滞在記などをまとめたエッセイ集。前述の「世界は右に回る」とほぼほぼ同時期の将棋界の話も多くあり、棋士として見た世界と、棋士以外の業界人から見た世界との対比がおもしろかったです。(そんな意図で同時期にこの2作を読んだわけではなくたまたまでしたが)
井上真偽 その可能性はすでに考えた
あらすじと感想:
カルト教団が運営する村で暮らしていた少女は、斬首による集団自殺から、ともに暮らす少年の手で助けられ、唯一の生き残りとなった。だが、その少年は首を斬り落とされながらも少女を抱えて運んだというのだ。
事件から十数年後、かつての少女は事件の謎を解くために探偵の元を訪れる。その探偵は、奇蹟の存在を証明するため、全てのトリックが成立しないことを示すーーー
探偵側が考えうるトリックを全て否定することによって、奇蹟の存在証明を果たそうとする異色のミステリ。扱われる事件の不可能性が強いため、とんでもないバカトリックが立て続けに披露されますが、その悉くを否定する探偵側の"否定の論理"はなかなかに見事。
だだ、最後の「敵」との対決から先は、イマイチ盛り上がりに欠けたかなと。「敵」のロジックの性質からして仕方がない部分ですが、対決の終わりがあまりにあっさりしている感じがします。
とはいえ、幕間を挟んだ最終章での幕引きは美しく、総じて満足の出来。人を選ぶ作品かもしれませんが、ロジックの組み立てを好む方は読んでみて損はないかも。