ねいぴあの雑記帳

ドミニオンとか将棋とかミステリとか脈絡のない雑記帳

2018.5.13 県名人戦 その1

アマ名人戦全国大会、東北六県大会の県代表を決める表記の大会に出てきました。

 

2週にわたって行われる大会で、1週目はベスト8に進む7人を決め、2週目に前回優勝者を加え準々決勝からのトーナメントで行われます。

 

自分は前回大会運よく優勝したので2週目からの登場。2連覇を狙う戦いです。

 

 

準々決勝

 

抽選の結果、お相手は超有名アマ強豪を兄に持つN氏。進学先から就職で出身県に戻ってきた最近の自分の県ではよくあるパターンです。

 

N氏得意の四間飛車居飛車穴熊で対抗して下図。(先後反転しています)

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銀冠に組むこの瞬間がチャンスと見て仕掛けます。

☖7五歩☗同歩☖同角☗7八飛☖7六歩☗8八角☖7二飛。

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通常、上の図から☗7六飛でよく言われる「飛車と飛車の間に駒が挟まった方が悪い」図になるのですが、この場合は4七の金が浮いている事、かつこちらの金が3一であるため5七角成が成立するため不可。ここから☗3八金☖8六歩と進む本譜の進行なら仕掛けは成立してたのかなと思います。

 

ちょっと進んで下図。

 

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こちらの方針としては、振り飛車の動きを封じて8七のと金を活用できれば自然と勝ちになるだろうという大局観。少しいいかなと考えていたのですが、ここで☗1五歩☖同歩☗1三歩☖同香☗2五桂と端にちょっかい出されると角が質駒になっていることもあり難しい、というのが感想戦での結論。

本譜はここから☗2五歩☖3三金で怖い所がなくなり優勢を意識。4三の金が浮いている事と将来の端攻めがネックだったのですが、どちらもいっぺんに解消できました。

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憂いが無くなったらあとは殴るだけ。縦や端が絡まず、横からの攻め合いになった時の穴熊の信頼感たるや。

結果的に8七のと金を寄せていき理想的な局面ができあがりました。

たまにこういう勝ち方できるとやっぱり穴熊やめられねーわってなります。

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秒読みになる事無く勝利し準決勝へ。対戦相手は支部名県予選で負かされたS氏。リベンジといきたいところですがどうなるか。

 

(続く)

 

2018.4月読んだ本

4月はホント忙しかった。まさかの3冊のみ。

 

北山猛邦  踊るジョーカー

 

感想:

”気弱すぎる名探偵”音野順シリーズの第1作目。自分はうっかり2作目から読んだのですが、問題なく楽しめました。

タイトルになっている「踊るジョーカー」は流石の出来栄え。密室モノでこのプロットは初めて見ました。

その他の短編もなかなか凝ったネタが扱われていて堪能できました。

 

 

早坂吝  虹の歯ブラシ

 

感想:

メフィスト賞受賞作の「〇〇〇〇〇〇〇〇殺人事件」の探偵役、”援交探偵”上木らいちを主人公とした連作短編集。

前作はぶっ飛んだ仕掛けが用意されていましたが、今回も期待通り「青は海とマニキュアの色」で壮絶なバカトリック(褒め言葉)にしてやられました。

しかし、それで終わらないのが本作の恐ろしい所。全編通して違和感を覚えながら読み進めていたのですが、最終章でそれらが一気に回収される怒涛の展開は圧巻。オチに関しては好みの分かれるところかとは思いますが、肩の力を抜いて楽しめる一冊です。

 

 

北野新太  等身の棋士

 

感想:

「透明の棋士」に続く2作目。将棋界に訪れた藤井ブームの裏側や、棋士人生の岐路に立った棋士たちの内面を鋭く切り取った一作です。

正直、ここ最近は仕事が忙しいのもあって、全く将棋に触れられずに熱が冷めつつあったのですが、再燃のきっかけとなりそうな一冊でした。

 

 

 

2018.3月読んだ本

3月は疲れ果てて少なめの5冊を読了。

 

乾くるみ  物件探偵

 

感想:

"物件の感情が視える"というエキセントリックな探偵役の登場する短編集。謎やトリック自体は小粒な印象でしたが、人間の業の深さが垣間見え、不動産業界怖いなーと自分が小市民であることを再確認させられました。

 

天袮涼  謎解き広報課

 

感想:

自治体広報誌に焦点を当てた、連作短編集。天袮涼の連作短編には、「葬式組曲」や、「セシューズ・ハイ」といった、全編を通して貼られた壮大な伏線が特徴的で、そういった点を好んでいたのですが、本作を読んで氏の小説のもう一つの魅力に気が付かされました。それは、職業人の熱量がヒシヒシと伝わってくること。パワフルに動き回るスーパーマンのような登場人物を描いているわけではないのですが、プロットに絡めて半ば狂気にも似た信念を持って仕事に臨んでいる人々が描かれています。

この小説も、前述2作のような派手な結末が用意されているわけではないのですが、登場人物の仕事に対する熱意や愛情がしっかり書かれていて、こういうところも天祢涼のファンになった理由なのかなと自分のことながら新たな発見になった一冊でした。

 

市川憂人  ブルーローズは眠らない

 

感想:

前作"ジェリーフィッシュは凍らない"から、探偵役の刑事マリアと漣が再び登場する本作。一点だけ、アンフェアじゃないか?と思う部分はあるものの、着地点を見つけることのできないストーリーに、「一体この話はどう決着をつけるのだろう?」とグングン引き込まれる出来栄えでした。

"薔薇の蔦で覆われた密室"に被害者の首だけが残されるという、前作並の本格めいた謎を筆頭に、数多くの魅力ある謎が詰め込まれている快作です。

 

貴志祐介  極悪鳥になる夢を見る

 

感想:

貴志祐介のエッセイ集。あとがきで著者も述べているが、決して良質なエッセイ集ではない。…ないのだが、第I章と第II章は背筋が粟立つようななんともいえない味わいがあり、この2つの章だけなら味のあるエッセイ集となったように思う。それだけに他の章の出来がイマイチだったのは残念。

まあ、本業はエッセイストではないので別にいいのだけれども。

 

北山猛邦  密室から黒猫を取り出す方法

 

感想:

"気弱過ぎる名探偵 音野順"を探偵役に据えた短編集。北山猛邦の作品を読んでみようかなと思い、まずは音野順シリーズからと思ったのですが、実は本作は第2短編集。第1短編集と勘違いして手に取ったのですが、本作からでも問題なく読めます。

 

"物理の北山"の異名を持つ作者ですが、その異名どおりの作品あり、企みに満ちた作品ありで、非常に楽しめた作品集でした。

個人的ベストは倒叙式ならではの仕掛けが炸裂する「停電から夜明けまで」。

油断大敵

今日は地元の大会に出てきました。優勝すれば東北六県大会の代表権を得られる大会で、県の三大タイトルの位置づけで非常に格式あるタイトル戦です。

 

三大タイトル戦は1週目が予選会で7人を選抜。翌週に前回優勝者を加えた8人でトーナメントを行います。今日はその2週目。

 

抽選の結果、対局相手は前回優勝者のK氏。高校選手権でのかつてのチームメイトで、自分が将棋を始めたころからの仲。

 

将棋は最近たまに使うゴキゲン中飛車から優位を築くも、ヌルい手連発して差がつまり終盤へ。そして迎えた下図。☖5二歩と馬の位置を打診した手に☗5四馬とした局面です。(便宜上先後逆です)

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ここから秒読みの中で発見した次の手順が秀逸。

 

☖5六飛! ☗6五馬 ☖6一飛!!

 

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自陣の憂いを消して、遠く6九の金に狙いを定める飛車打ち2発。

数年に一度の妙手順、俺天才じゃねえのか などと有頂天になっていたら・・・

 

上図より、☗4三角☖6六飛☗6四歩☖6九飛成☗同銀☖7七金☗9八玉と進行。

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☖9五歩で将棋は終わり、飛車打ち2発はかっこよかったけど、優勢な将棋をもつれさせるこの感じ、準決勝以降も気を引き締めないとなーなどと一局を振り返りながら着手し時計を押したその瞬間。

 

・・・詰めろになってない!!!

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当然のごとく☗5四角成とされて呆然。☖9七桂成から☖9六歩で簡単かと思いきや、8六の地点がすっぽ抜けるんですね。

この図でもまだ☖6三歩としておけば難し目の終盤でしたが、呆けたまま☖9六歩としてしまい、ぴったり詰まされて負け。(ぜひ考えてみてください)

 

2つ上の☖9五歩突く前の局面ですが、☖8六歩☗同歩☖8七歩として、何か受けさせてから☖9五歩でしたね。冷静な目で見れば、基本手筋だというのに・・・

完全に思い通り事が運んで気が抜けていました。将棋の終盤はタイトル通り油断大敵。勝ちだと思っても気を引き締めて盤に向かわないと簡単にひっくり返るという事は何度も痛い目見ているというのにこのざまですよ。

 

☖9五歩が詰めろじゃないことに気が付いたときの、あの血が逆流するような感覚、しばらく夢に出てきそうです。

 

 

2018.2月 読んだ本

石持浅海  月の扉

 

あらすじと感想:

国際会議を控えた那覇空港でハイジャック事件発生。犯人の目的は沖縄警察に拘留されている「師匠」を滑走路に連れてくること。そんな航空機の中で何故か乗客の死体が発見されるーーー

特殊な状況のクローズドサークルもの。何故ハイジャックされた飛行機のなかで、どうやって誰が事件を起こしたのかが謎。howの一部とwhoはみえやすくなっていますが、それ以外については総じてよくまとまっています。また、用意された結末も見事。「師匠」の造形がちょっと現実離れしている点と、機内の緊迫感がやや欠けている点はちょっと残念でしたが、本作の構図を考慮すると致し方ない(特に前者は舞台設定上外せない)かと思われます。総合的に見て快作といえるかと。

 

早坂吝  ◯◯◯◯◯◯◯◯殺人事件

 

感想:

第50回メフィスト賞受賞作。個人的に、メフィスト賞受賞作はいい意味で「ぶっ飛んでる」作品が多いイメージですが、本作も想像以上のぶっ飛び方で大満足。その大ネタを支える伏線の張り方も上手さを感じます。

 

北野新太  透明の棋士

 

感想:

新聞記者である著者の、棋士女流棋士に対するインタビュー17編。インタビューといってもショートなものばかりで、発行社のレーベル「コーヒーと一冊」にふさわしい分量にまとまっています。

等身大の棋士たちを爽やかに描く仕上がりで、将棋や棋士に興味を持って、深く知りたいなという方々に特にオススメ。

 

先崎学 世界は右に回る(再読)

 

感想:

将棋世界に連載された先崎九段のエッセイ集。先崎先生のエッセイは中学生の頃から好きで、今でもたまに読み返したくなります。

将棋世界に掲載されたのが、ちょうど羽生七冠誕生のころで、先崎先生がC2からなかなか昇級できなかったころでもあります。そんな中で、昇級を決めた直後に書かれた「ここ数年のこと」は先崎先生にしか書けない文章かと。また、昭和の匂いも色濃く残る棋士の日常も楽しく読める一冊です。

 

市川優人 ジェリーフィッシュは凍らない

 

あらすじと感想:

特殊技術で開発され、航空機の歴史を変えた小型飛行船〈ジェリーフィッシュ〉。その発明者であるファイファー教授を中心とした技術開発メンバー6人は、新型ジェリーフィッシュの長距離航行性能の最終確認試験に臨んでいた。ところが航行試験中に、閉鎖状況の艇内でメンバーの一人が死体となって発見される。さらに、自動航行システムが暴走し、彼らは試験機ごと雪山に閉じ込められてしまう。脱出する術もない中、次々と犠牲者が……

第26回鮎川哲也賞受賞作。「そして誰もいなくなった」、「十角館の殺人」などを代表としたクローズドサークル内における全滅モノなのですが、このテーマでは斬新な趣向をしっかりとした筆致で読ませる作品。作品の出来には大満足なのですが、この手のテーマはこういう魅せかたにしかもはや生き残る道がないのかな・・・とちょっと哀しかったり。

 

大崎善生 編集者T君の謎

 

感想:

作家・大崎善夫が将棋世界編集長時代に見た将棋界や、作家に転身後のヨーロッパ滞在記などをまとめたエッセイ集。前述の「世界は右に回る」とほぼほぼ同時期の将棋界の話も多くあり、棋士として見た世界と、棋士以外の業界人から見た世界との対比がおもしろかったです。(そんな意図で同時期にこの2作を読んだわけではなくたまたまでしたが)

 

井上真偽 その可能性はすでに考えた

 

あらすじと感想:

カルト教団が運営する村で暮らしていた少女は、斬首による集団自殺から、ともに暮らす少年の手で助けられ、唯一の生き残りとなった。だが、その少年は首を斬り落とされながらも少女を抱えて運んだというのだ。

事件から十数年後、かつての少女は事件の謎を解くために探偵の元を訪れる。その探偵は、奇蹟の存在を証明するため、全てのトリックが成立しないことを示すーーー

 

探偵側が考えうるトリックを全て否定することによって、奇蹟の存在証明を果たそうとする異色のミステリ。扱われる事件の不可能性が強いため、とんでもないバカトリックが立て続けに披露されますが、その悉くを否定する探偵側の"否定の論理"はなかなかに見事。

だだ、最後の「敵」との対決から先は、イマイチ盛り上がりに欠けたかなと。「敵」のロジックの性質からして仕方がない部分ですが、対決の終わりがあまりにあっさりしている感じがします。

とはいえ、幕間を挟んだ最終章での幕引きは美しく、総じて満足の出来。人を選ぶ作品かもしれませんが、ロジックの組み立てを好む方は読んでみて損はないかも。

2018.2.18 支部名人戦県予選

約1ヶ月ぶりに大会に出てきました。残業多くてほとんど将棋指せてなかったのですが、元奨三段の方がでてなかったのでもしかしてチャンスあるかな?と思ったのですが…

 

予選リーグは辛うじて抜けて、決勝トーナメント一回戦は日頃お世話になっている研究会の主宰の方と。悲観しすぎて自爆気味の指し手が多かったのですが、お相手も間違えてくれてなんとか勝ち。

で、改めてトーナメントの表を見ると、自分の山は中高生しかいないというね…

これはなんとしても決勝までいかなくてはと気合をいれて臨んだのが功を奏したのか、準々決勝、準決勝と勝てて(準決勝はかなり危なかったのは内緒)トントン拍子で代表決定戦にいけました。

 

決勝の相手は県の第一人者のS氏。元学生王将で、全国大会の常連です。

 

 

S氏の四間飛車に居場所穴熊で対抗して下図。 

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 駒組負けしとる…  

 

 最悪千日手かなーと思っていましたが、駒組みに時間使いすぎて秒読み寸前。(そんなに時間使ってなぜこんな駒組み下手くそなのか)少ない持ち時間で後手番引いてまでもう一局やるよりかは動いてしまったほうがいいかと考え☗1五歩として少し進み下図。

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 ここからS氏の捌きにご注目。

☖4四角☗同角☖同飛☗1四歩☖3五歩。 

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 ここまで綺麗に捌かれると普通はダメとしたものですが、☗4五桂ととりあえず駒を前に進めてチャンスを待ちます。

 

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 ちょっと進んで上図の局面。本譜は☗3二角☖4五金☗2一角成と進んだのですが、見えていなかった順がありました。

☗2一角成に代えて☗5七金がそれ。 

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7六には3二角が利いている・・・!!

☖4九角成くらいですが、☗5六金が絶品。この手順があるならけっこう大変な形勢だったんですかね。

 

5四の地点に馬を置くことを目標にしていましたが、7六の地点に利きがあることが見えてなかったです。

 

 

下図は最終盤。

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 ここから ☖9七香不成☗8八玉☖8五桂☗9三歩成☖同玉☗9六香☖9四歩。 

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 上の局面は何か勝ちがあるだろと思っていたのですが。実戦は☗7ニ馬から読んでいましたが上手くいかないのでパニクって、8五に歩が進めば寄せやすいと最後の5秒で方針転換して☗8六歩としたのが敗着。以下、☖5八歩成☗8五歩☖6八と☗同金引☖8六銀で負け。 

 

 さて、9四歩の局面はなにかなかったのか。感想戦で触れられたのは☗8六歩に代えて☗9五歩。以下☖9八香成☗同玉☖9七銀☗8九玉☖5八歩成☗9三歩成☖7一玉。

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ここで☗4五馬がたぶん詰めろ逃れですが、☖6八ととされると・・・

 

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 後手玉が詰まない・・・!

※ソフトにかけていないので上記感想戦の結論は正確ではない可能性あります。

 

さて、では☗9六香に☖9四歩の局面はどうするべきか。他の選択肢を後日考えていましたが、☗7七桂はどうか。 

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 先手玉は8五の桂がいなくなればかなり延命できそう。一例で考えられるのは以下☖同桂成☗同銀☖8五桂☗8六歩☖5八歩成☗8五歩☖6九と☗7二馬。こういう展開なら勝ちかなと。

 

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 まぁ、こうはならないでしょうが、チャンスのある終盤戦が続いたのかなという気がしています。

ちなみにこの将棋、116手と短手数でしたが不動駒は2枚のみ。しかもその2枚が四間飛車居飛車の対抗形なのに4七と2三の歩という不思議な将棋でした。

 

久しぶりに県代表のチャンスでしたが、ここ最近の調子を考えれば準優勝でも致し方なしでしたかね。また次のチャンスがきたときにはものにできるよう頑張ります。

 

 

 

2018.1月 読んだ本

どこまで続くかわかりませんが、月ごとに読み終えた本の感想でも挙げていこうかなと思います。基本的にミステリ多め。あらすじが書いてあったりなかったりするのは感想書くタイミングでの気力の問題です・・・

 

1月は年始の休みで結構読めた月でした。

 

 

白井智之 人間の顔は食べづらい

 

感想:著者のデビュー作。食用クローン人間が合法化された世界での特殊設定ミステリ。一点だけ、犯人視点でツッコミ所はあるものの、それ以外はこの世界ならではの展開や、仕掛けが上手く噛み合ってリーダビリティの高い仕上がりかと思います。

グロ描写がちょっとだけあるのでその点は注意かも。

 

謎の館へようこそ 黒

 

感想:「館」をテーマにした、講談社タイガから出版された短編集。同タイトルの「白」も刊行されてます。黒の方は読者を選ぶかも。個人的ベストはネタでは白井智之の首無館の殺人、ストーリーでは井上真偽の囚人館の惨劇。

 

深水黎一郎 ミステリーアリーナ

 

感想:多重解決をテーマに据えた意欲作。舞台設定も踏まえて、発想の勝利でしょう。このテーマにおける傑作。

 

天袮涼 キョウカンカク

 

感想:メフィスト賞受賞作家、天袮涼のデビュー作。「音が視える」共感覚の持ち主を探偵役としたシリーズ第1作でもあります。探偵役の音宮美夜や、依頼人の矢萩のキャラがたっていて、サクサク読み進めることができました。

最終盤で明かされる、様々な謎を解く鍵となる犯人の動機は衝撃的で、満足度の高い一冊。

 

天袮涼 闇ツキチルドレン

 

感想:「キョウカンカク」シリーズ2作目。四面楚歌の状態から美夜が紡ぎ出す真相はなかなか見事。…と思いきや、その後に色々な意味で度肝を抜かれました。

矢萩さんの意味深なセリフもあり、続編読むのが楽しみ。

 

深水黎一郎 エコール・ド・パリ殺人事件

 

あらすじと感想:芸術探偵シリーズの一作目。「呪われた芸術家たち」とまで呼ばれた、通称エコール・ド・パリの一段に魅せられた画廊の社長が自宅の一室で刺殺体となって発見された。部屋の窓下には犯人の足跡はあるものの、その窓は閂で閉ざされ、そこには何故か被害者の血が塗り込められていたーーー

「読者が犯人」という禁断のテーマに挑戦したデビュー作とはうってかわって、ベッタベタな雰囲気の著者の第2長編です。タイトルにもはいっている、ある芸術家の一集団に作中作の形で触れらていますが、芸術とは無縁の私でも楽しく読み進めていくことができました。

ただ、その作中作と、破滅的な捜査陣のあるキャラクターを除いては、ストーリーの展開は地味な印象。ところが、読者への挑戦状を挟んでからの急展開は圧巻の一言。まったく想定していない真相にはやられました。

芸術とミステリが融合した傑作です。

なお、破滅的なキャラクターは著者の別作品で「大べし見警部の事件簿」で主役として登場し、ミステリのお約束を破壊する怪作に仕上がっています。

 

加納朋子 ななつのこ

 

感想:第三回鮎川哲也賞受賞作。作家と女子大生の文通を通して描かれる、連作短編集です。

作中で語られる、文通のキッカケになる作品も本作のタイトルと同一で、しかも本作も作中の「ななつのこ」も、似たような謎が扱われるユニークな作りになっています。

あまり他のミステリでは見られない、透き通った情景描写や、予定調和のような結末と相まって、読み終わると心が洗われる、そんな一冊です。

 

島朗 島研ノート 心の鍛え方

 

感想:伝説の研究会"島研"のリーダー的存在の島九段の綴る、メンタルの強さを軸としたエッセイ集。将棋に限らず、勝負事に関わる人は読んで損はないかと。惜しむらくは、下り坂の今ではなく、上昇志向の強かった高校生の時に読みたかった。

 

大山誠一郎  密室蒐集家

 

感想:密室蒐集家なる、密室に絡む謎が起きるとどこからともなく現れる不思議な存在を探偵役とする、タイトル通り「密室」をテーマにした短編集。各編に通じてなのですが、細やかな手かがりから導き出される密室蒐集家の解決は見事の一言。謎とその解明に特化し、その他の描写は可能な限り削ぎ落とした自分好みのミステリです。

個人的ベストは"何故密室はつくられるのか"に特化した講義が語られる「理由ありの密室」。